「…おい」
横からあいかわらず不機嫌そうな声がかかって、天蓬はふと顔を上げた。
「何です?」
「なにじゃねぇ。なんでお前、ここにいるんだ」
「いちゃいけません?」
あっけらかんと問い返され、金蝉は内心チッと舌打ちした。
口ではとうてい勝てないことが短くはないつきあいでわかっいてるからだ。
仕方なく大きくあからさまなため息をひとつつくと、金蝉は再び黙って手を動かしはじめた。
めずらしく悟空が不在で、せっかく仕事がはかどると思っていた矢先に突然の訪問者で、調子が崩されてしまう。
特に何も言葉を発することのない天蓬だから、悟空のように邪魔になるということはない。しかし、同じ室内にいるということを認識してしまうと、逆に何も語られないことがかえって気になってしまうのだった。
結局書類にほとんど目を通すことなく手を止めて、金蝉は再び視線を天蓬に戻した。
天蓬は何をするでもなく、窓枠に腰かけて、煙草をふかしながらボーッとしている、ように金蝉には見えた。
「……何です?」
視線に気づいた天蓬が金蝉に問いかける。
手にした煙草から、細い煙がひとすじ白くたちのぼるのを何とはなしに目で金蝉は追った。
「―――そんなもの、どこがうまいんだ?」
問い返されて、一瞬何のことを指すのかわからなかった天蓬は、きょとんとしてから自分の手元に金蝉の視線がいっているのに気づいて、ああ、と呟いた。
「おいしいとかあんまり考えたコトなかったですけど…」
「じゃあなんで吸ってる?」
「なんででしょう……。手もちぶさたなんですかねぇ」
にっこり笑って天蓬が言うのを聞いて、金蝉は片手で顔をおおった。
どうやら何も言わなかった割に、かまわなかったのが天蓬にはお気に召さなかったらしい。
再びため息をついて金蝉は手にしていた署名用のペンを机の上においた。
それを見ておもむろに天蓬が近くに寄ってくる。
机上に腰かけた天蓬が金蝉の長い金髪を手にとった。するりと白く長い指をすりぬけていく自分の髪を金蝉は黙って見ていた。
「……味見してみます?」
何とはなしにかけられた言葉に、金蝉はふと横に座す天蓬を見上げた。
そこにふと降りてくるぬくもり。
「……………」
「―――どうです?」
悪びれた様子も突然の行動を反省する様もまったくない天蓬に金蝉はとっさに言葉が返せなかった。
「お前な……」
「知りたいって言ったの金蝉じゃないですか」
言ってない、と金蝉は内心思ったが、賢明にも口には出さなかった。
―――何と言うか、困った男(ヤツ)だ、と思う。
つかみどころがなくて、いつも自分の手をすりぬけていってしまう、風のよう。だから対処に困る、ような気がする。
「――――――まずいな」
「そうですか?」
だけど逃げられっぱなしなのも、一方的にやられっぱなしなのもなんだか悔しい気がして。
「―――口直しさせろ」
ぐいと腕をひき再び唇を重ねる。
驚いたように一瞬瞳を見開いた天蓬は、嬉しそうに破顔してそっと瞳を伏せた。
〜 fin 〜
真性ごじょはちな蒼さんに、こんな素敵な金天をいただけるなんて、すごく嬉しいです〜!いや、もうらぶらぶですね!金蝉が何だかかっこいいですvv そして、天蓬のイイ性格ぶりも素敵…vv 本当にありがとうございました♪ いや、もう大満足ですvv